その昔から盆栽は床の間に掛け軸と共に飾られていました。このために盆栽には表と裏がはっきりと分けられるようになりました。床の間では座して愛でることが基本であったことでその樹高もある程度の制限があったとも言われています。しかし現在は置き場所は床の間ではなく、座して鑑賞せずに360度どこからでも眺めるという特徴も求められつつあります。盆栽樹形は実際のところ「形」が形式化されていますが、「大自然を盆栽鉢に盛る」という考え方をもとにもっと空間的な表現の仕方が求められています。見上げたり見下ろしたり、ぐるりと回りながら眺める盆栽の方が魅力がより一層増すということでしょう。

盆栽の樹本を学ぶという観点から、樹の表裏や基本樹形をご紹介します。

樹の表と裏を見極める

華道では活け込むときに必ず表と裏があるように、その花ひとつひとつに表と裏があります。樹も同じことで、例えばお花見に行った時のことを思い浮かべてみると良いでしょう。360度どこから見ても美しいものですが、一番美しく見えるという方向があります。それを樹の表として反対側が裏とされます。盆栽は幹に模様を浸けたりもするのですが、そのような時にも表側により良い模様が出るようにすると盆栽自体の美しさが際立つのです。枝ぶりも表から見た時にいちばんよく映るように剪定しますが、1枚の絵ではなく「奥行」を持たせるために裏側に多く枝を混ませるようにして作ります。

最も美しい「正面」を決める

盆栽鉢に植えこむ前にまず正面を決めることから始めます。その盆栽の一生が決定づけられるほどの大切なステップです。松も梅ももみじでも、すべての印象を決めてしまうのが正面です。年月を経て成長していくと樹形も変化するのは当然のことで、そうすると正面も変えてやる必要が出てきます。3年から4年の間隔で植え替えをする時には再びこの正面を決めて美しさを維持するという作業が発生します。盆栽を購入するときに、既に年月をかけて成熟した美しさを持つものならばすでに表裏もできていることでしょう。でも、ミニ盆栽やまだ若い樹を購入した場合には手元に届いた時によく観察してみましょう。

表に求められる条件

根が手前方向と左右に良く張り、樹皮の美しさや枝の張り方が良く見える方向が表にしやすいでしょう。樹の倒れ方も重要で、幹や樹全体が多少曲がっていればその方向が表となり手前に向けて仕立てることになります。

盆栽を横から見ると幹や樹がやや前方向に傾いています。この傾きを「前かがり」と呼びます。手前に傾けることでその樹が大きく茂り見ているものが覆われるような印象を受ける表現方法です。座して眺めていたころの名残とも言えますが、盆栽鉢の高さに眼を持って行くといかにも森の樹が被さってくるような大きさで映ります。表側に気持ち傾けるように植えこんだり、針金で整えて作られたりします。

植えこむときにも表と裏は重要

観葉植物のように植木鉢の中央に植えたのでは盆栽の持つ自然の雄大さを表現することはできません。そのため寄せ植えにする時にも等間隔ではなく少しずつ遠近感を出すように植えて自然な奥行き感を表現します。表を手前に向けることはもちろんですが、ただ正面を真ん中に据えるのではありません。ほんの少しだけ左右のどちらかに寄せて植えることで自然な空気感を演出することができます。また、奥に寄せることで手前側の広さが強調され、前かがりの樹形との相乗効果で奥行きの広さを感じさせることができます。根が張っているものは手前に根の露出が増えることでさらに重厚感を出すことになります。

表と裏をよく見極めることでその樹の良さがさらに引き立ちます。苔や下草を植えるにも、正面から見てどうかという「見え方」を考えて植えこんでやるとさらに見栄えも良くなります。

盆栽は自然の芸術です。年月をかけて育てることで樹形が少しずつ変化していくのも楽しみのひとつです。毎日その樹を360度ぐるりと眺めて、いちばん美しく見えるポイントを探してやるのも愛情表現のひとつですね。